建物の歴史と経緯
北茨城市磯原町のT邸は、大正11年頃に当時敷地内を流れていた川の氾濫により、家屋が流されてしまい、その翌年に施主の祖父が急ぎ建てた建物との事でした。
現地へ伺った際に、拝見した箪笥等家財道具の幾つかには、“水難見舞”の焼き印があり、当時の状況を窺い知ることが出来ました。また、当時の貴重な記録として上棟日の写真が残されており、屋根の上には工事関係者と思われる多くの男性が、下には老若男女が大勢映っており、当時この家が建てられたことは、地域の人たちにとっても特別な意味のあった事だと推測しました。T氏の建物への思いと共に、地域にとっても、次の時代へと継承すべき貴重な民家であると実感しました。
建築物としての特徴
建物は正形6間取、屋根は棟違いの入母屋せがい造り。二つの玄関と、床の間付きの座敷が手前と奥に二室あることが特徴的。また、自己所有の山林を背後に有していましたが、同時代の民家と比較して、土間上部の小屋組みが簡素であり、梁・桁の主要構造材も材径が一回り小さく、垂木も杉(間伐材)の反割り材を使用し、差し鴨居や長押などの化粧材にも節有り材が使われている事など、材料を吟味する間もなく建てられた復興事業であった事が読み取れました。
建物の状態
屋根と小屋裏は改修歴があり、雨漏りや腐朽は無く、構造材も良い状態でしたが、経年劣化に加えて東日本大震災の被災により、石場立ての柱は不動沈下と共に大きく傾斜し、ほとんどの建具が動かない状態でした。
再生の方法
再生は先ず、RC造のベタ基礎を作るために、柱・梁・屋根の主要構造部を残して、手ばらしした後に、建物全体を1.2mほどリフトアップし、基礎完成後に土台を敷き再び建物を降ろし、その後に造作を行なう方法としました。
施主の要望
施主からのご要望は、通しの和室3間及び奥座敷の4室は建てた当時の意匠に復元し、既存建具及び古建具(既に解体された明治創建の隠居住宅の建具)を再利用。広い土間部分は、生活の中心の場としてモダンなワンルーム(LDK)空間とし、壁面に造作家具を設け書斎機能を併せ持つことの他、冬でも暖かい温熱環境及び耐震性能を上げる等でした。
再生のポイント
プランは基本的な構造を活かしながら、北側に中廊下を設け生活の中心であるLDKと水廻り、寝室を効率の良い動線上にまとめる共に、風通しや明るさを確保しました。連続する和室4間は、伝統的な和の統一感を持ちながら、部屋ごとに板戸、襖、障子と異なるデザインの建具(古材)で構成したことや、伝統を感じる古色の板戸とやや明るめな壁とのコントラストなどで、変化に富んだ奥行き感を感じるデザインとしました。LDK(土間)は、十分な断熱材と床暖房を設置した上で、小屋裏の梁や桁を現わしにした高い天井で、開放的かつダイナミックな空間としました。
家族の古い記憶や、伝統的な日本建築の佇まいを感じつつ、シンプルな動線と通風や採光を確保し、また耐震性も兼ね備えた快適なモダンライフを実現した再生となりました。
CASE 07
To邸 古民家再生工事 茨城県北茨城市 2015
所 在 |
茨城県北茨城市 | |
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創 建 |
大正12年頃 | |
建築面積 |
204.68㎡(61.91坪) | |
延床面積 |
190.87㎡(57.73坪) | |
構造・用途 |
木造平屋建て | |
竣 工 |
2015年 11月 | |
担 当 |
吉田・恩蔵 | |
設 計 |
㈲吉田建築計画事務所 | |
主な外部仕上 |
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主な内部仕上 |