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古い建物に、新しい時間が流れはじめる

古民家を再生して、カフェにする

 古民家には、その土地で暮らしてきた人たちの記憶があります。 柱や梁、建具、土間、縁側、庭。 そこには、長い年月の中で積み重ねられた暮らしの風景があります。 それらを残しながら、新しい使い方を与える。 そこに人が集まり、食事をしたり、お茶を飲んだり、会話をしたりする。 かつての「住まい」や「納屋」が、新しい人の営みを受け止める場所になります。
 私はこれまで、石岡市の岡野ファームと、かすみがうら市のカフェHananaという、二つの古民家カフェの設計に携わりました。 今回は、この二つの建物を通して、「古民家カフェ」という場所について考えてみたいと思います。

岡野ファーム

農家住宅が、地域をつなぐカフェへ

 石岡市八郷地区、吉生。筑波山を背景に、豊かな里山と農村風景が広がる場所に岡野ファームがあります。 ここでは広い敷地の中に建つ母屋を、ブルーベリー農園の拠点となる農家カフェとして再生しました。
 もともとの建物は、昭和56年に建てられた木造平屋建ての農家住宅です。岡野ファームを営むご夫妻の奥様の実家であり、ご両親から農地とともに受け継がれた建物でした。里山の木々を使い、地元の大工さんよって丁寧につくられた、地域の暮らしを感じさせる住宅です。
 再生にあたって大切にしたのは、長い年月を重ねてきた大黒柱や差し鴨居、古建具など、その建物が持っている魅力をできるだけ活かすこと。

縁側に腰かけて

古い空間に、モダンな家具を置く

 古民家の空間に、地元の家具作家によるポップなデザインの家具を置き、薪ストーブも加えました。
 古い建築とモダンデザイン。
モダンなデザインを少し加えることで、古民家の持つ素材の美しさや時間の厚みが、より鮮明に感じられます。
 縁側で、庭を眺めながらお茶を飲む。
 障子越しの柔らかな光の中で食事をする。
 室内から縁側、庭、里山の風景へと視線が連続していく。
 岡野ファームでは、自家製ブルーベリーや八郷産果樹を使ったジェラートやスムージー、地元食材を使ったランチも提供されており、古民家、農園、食、地域が一体となった場所なのです。

リンク:岡野ファーム ホームページ

客間をカフェ空間に

ブルーベリーをモチーフにした椅子とクッション

北欧製の薪ストーブ

カフェHanana

使われなくなった納屋が、人の集う場所へ

 もう一つの事例が、かすみがうら市の「カフェ Hanana」です。こちらは、もともと農家の納屋として建てられた空き家を、古民家を探していたオーナーが購入しカフェとピザのお店として再生しました。2008 年のプロジェクトですので、岡野ファームよりも 13年ほど前になります。
 当時から考えていたのは、古民家ならではの素朴さや懐かしさを残しながら、人が心地よく過ごせる場所をつくることでした。
 この場所にあった素材の活用。三和土の土間、壁の漆喰と煉瓦。天井の梁、古材を使った洗面カウンタ-、笠間焼の器など。
 また、納屋ならではの仄暗さを残す為、必要な部分を照らす最小限の照明計画とし、素朴な古民家の中に、心地よい落ち着きのある空間をつくっています。

左側:トイレ 右側:洗面所

軒下空間にある赤い扉が入口

庭までが「カフェ」になる

 カフェ Hanana の魅力は建物と庭とのつながりです。
 深い庇の下にはテラス席を設け、ガラス戸を挟んで室内と外部が連続します。冬には柔らかな日差しを受け、夏には深い軒が強い日差しを遮る。
 林を通ってきた風が、テラスを抜けていく。
 これは、昔の日本家屋の「内と外の中間領域」の考え方です。
 現代の住宅は、室内と屋外を分けてしまうことが多いのですが、古民家にはその間に縁側や土庇があります。そこは「外」でも「内」でもない、曖昧で心地よい場所です。カフェという用途には、この曖昧さがとてもよく合います。
 コーヒーを飲みながら庭を眺める。
 木々の葉が揺れる音を聞く。
 庭や自然まで含めて一つのカフェ空間になるのです。

リンク:カフェHanana Instagram

カフェHanana 全景

古民家カフェは「地域の入口」

岡野ファームとカフェHanana

 二つの建物は、もともと立地や用途も異なりますが、建物を再生したことで、新しいコミュニティーが生まれたことです。
 古民家カフェを訪れる人は、最初は既存店舗にはない「非日常を愉しみたい」という思いで来られるかもしれません。けれども、その場所に身を置くことで、
 「この場所はどんな歴史があるのだろうか」
 「この太い梁は何の木なのだろうか」
 「この庭の木はいつからあるのだろう」
 「この野菜や果物は、だれが作ったものだろうか」と、その土地や風土に思いを馳せるきっかけが生まれ、古民家カフェは飲食店としての存在から、その地域を知るための入口にもなり得るのです。
 岡野ファームでは、農業と農産物、そして農村の風景がカフェとつながっています。カフェHanana では、古い納屋と庭、地域の素材や手仕事が一つの空間をつくっています。
 建物が「地域の入口」になる。これは、古民家を再生する大きな意味の一つだと思います。

地元の特産品も販売

建物と周囲の自然環境が一体となる風景

「古いもの」と「新しいもの」の間に

 古民家再生に大切なのは、保存だけではなく、これからも使われ続けることにあります。そのためには、古きよきものを読み解き現代の社会環境の中で如何に魅力的な存在へと転換していくかにあります。
 「残すもの」と「変えるもの」を見極めること。
 それが古民家再生の設計では、とても重要になります。
 岡野ファームでは、古い農家住宅の空間にモダンな家具や薪ストーブを組み合わせました。
 カフェ Hanana では、古い納屋の素材や空間を残しながら、ピザ窯という新しいデザイン要素を加えました。
 どちらも、「かつての懐かしい時」を感じつつ、そこへ質の高いデザインが加わる事で、これまで以上に上質な時が流れて行きます。

古民家は、使われてこそ残っていく

 古い建物を残すことは、決して簡単なことではありません。建物は少しずつ傷んでいきます。人が住まなくなり、雨戸が閉じられ、庭が荒れていく。そして、いつしか「空き家」と呼ばれるようになります。
 しかし、そこに新しい価値やコミュニティーが生まれる事で、地域は再び人が集まり経済的にも活性化に繋がって行きます。
 住まいとして。
 カフェとして。店舗として。
 ギャラリーとして。
 大切なのは、「この建物を何に使うか」ではなく、「この建物があることで、地域にどんな新しい時間と価値が生まれるのか」を考えることなのだと思います。

縁側からの風景

軒下空間

古民家カフェから、未来の風景へ

 岡野ファームでは、農家住宅が農園と安全な食、人をつなぐ場所になりました。カフェ Hanana では、オーナの生き方に共感した方々を中心に、食事や会話を楽しむ居場所になりました。どちらにも、古い建物の価値を「過去のもの」として閉じ込めなかったことです。
 縁側で風を感じる。
 その何気ない時間の中に、建物が積み重ねてきた長い時間が重なっています。そして、その場所を訪れた人の新しい記憶が、またそこに積み重なっていく。
 古い建物に、新しい時間が流れはじめる。
 私は、そこに古民家カフェの一番の魅力があると思っています。

古民家再生コラム
写真 古民家カフェ 古い建物に、新しい時間が流れはじめる

 古民家には、その土地で暮らしてきた人たちの記憶があります。 長い年月の中で積み重ねられた暮らしの風景があります。 それらを残しながら、新しい使い方を与える。私はこれまで二つの古民家カフェの設計に携わりました。 この二つの建物を通して、「古民家カフェ」という場所について考えてみたいと思います。

写真 建具や梁の再利用や工夫

民家を再生する際に使わなくなった建具は、デザインや状態、サイズをもとに適材適所で再利用します。古い建具を新たに活用することで、味わい深い雰囲気を醸し出すことができます。居室の配管は隠すのに苦労しますがダミーの梁を設け、一部をくりぬいて通す方法があります。

写真 「茨城の古民家再生展」終了し、思うこと

古民家を次の世代へと繋ぐことは、歴史ある町並みを繋ぐこととなり、これからの豊かな地域づくりにとても大切なことです。古民家の魅力を感じつつ、家族3人が思い思いにすごせる居場所づくりを大切なテーマに再生を行いました。

写真 「茨城の古民家再生展」終了し、思うこと

東日本大震災を乗り越えて建つ、大切な地域の資源である古民家を、次世代へと住み繋いで行くことの重要性やその意義を、これまでの事例を基に多くの方々に知っていただき、古民家を1軒でも多く残したい、茨城の美し原風景を残したいという思いから展覧会を行いました。

写真 風景と暮らしを繋ぐ外構デザイン

歴史ある街並みの連続性を持つことが、その土地特有の美しい情景を残すことに繋がります。個人のライフスタイルを満足させること、誰もが美しいと思える伝統ある風景を創ることの両立が、より魅力的な民家再生つながるとともに、次世代へ継承するポイントになると思います。

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