如何にして木材を美しく室内に現すか

弊社では木造の保育園を設計する際に、単に構造躯体だけを木にするだけで無く、保育室内の柱や梁を現し(建築用語で、木肌を露出すること)にしています。子供たちが日々の生活の中で、木々の自然を五感で体験・経験することは、非認知能力を高める効果と共に、心身ともに安全で安心な生活環境を整える事に繋がります。また現しとした木材は調湿効果等が有り、温熱環境の面からも室内環境を向上させます。

一方で木材を現す事は法的(建築基準法)にハードルが高く、建物の規模や階数に応じて、イ準耐火建築物とする事や、保育室内や避難通路は内装制限の法律がかかる事から、その他建築(耐火性能が要求されない建築)のように、容易に木材を現しにすることはできません。そこで、燃え代設計という手法をつかって柱・梁を現しにしています。それには、意匠設計、防耐火設計、構造設計を合わせた総合的な知識が必要となります。

平磯保育園

はなのわ保育園

弊社ではこれまで、保育園及びこども園あわせて9か所の園舎設計において、準耐火建築物+燃えしろ設計をおこない、柱・梁を現しにしています。更に、天井材や壁材にも、内装制限をクリアーして無垢の木材を使用した事例もございます。保育園およびこども園は、延床面積が200㎡を超えると内装制限がかかるので、木材を現しにするには、ランクアップ(45分→60分)してイ-1準耐火建築物(60分)として内装制限を外さなければなりません。

燃えしろ寸法

燃えしろ設計とは、構造計算をして必要な木材(柱・梁)の断面寸法を求めた上で、火災時に木材の表面が燃える厚さを想定し、その厚み分を加える(木材を太らせる)方法です。想定する厚みはイ-1準耐火建築物の場合、集成材で45㎜、製材(JAS構造用製材)で60 ㎜です。(一般的に木材は1分で1 ㎜燃え進むと言われています)。
 例えば、独立柱(製材)は4面必要なので、必要断面120 ㎜角の場合、4面とも60 ㎜プラスして120㎜→240 ㎜角の柱となります。 梁現しの場合は、3面必要となるので梁幅105㎜×梁せい450㎜の場合、集成材で梁幅105㎜→195㎜、梁せい450㎜→495㎜となります。

燃えしろ設計における木部材の有効断面

そこで梁の間隔や掛け方や樹種の選択を検討して、構造材となる柱や梁の断面寸法を如何にバランス良く抑えるか、構造計画と意匠性の整合性が重要になります。またJAS製材の大径材の場合、その乾燥設備の方法、入手方法、在庫数も予め把握する必要性がございます。

example

くすのき保育園の
事例から

千葉県流山市

くすのき保育園は切妻屋根の木造2階建ての保育園であす。保育室棟と遊戯室棟の2棟で構成されており、両棟は渡り廊下で連結されています。
 2階建ての保育室の場合、児童福祉法により、準耐火構造とする必要があります。そこで主構構造部を1時間準耐火構造としたイ準耐火構造-1とすることで、内装制限を除外して、各所に無垢の杉板を張って現した設計としています。

1)1時間準耐火で内装制限を除外
くすのき保育園は延べ床面積が820.59㎡で2階の床面積が300㎡を超えている為、準耐火構造以上とする事及び壁・天井材に内装制限がかかる為、45分準耐火建築物ですと、壁・天井の各面積の1/10以下までしか現しにすることが出来ません。そこでランクアップして1時間準耐火構造にすることで、内装制限の規定を耐火構造同等として、適用除外にしています。
 一方で、設計者としては法的な問題をクリアーするだけでなく、万が一出火した場合にいかに燃え広がりを遅らせるかを考える必要が有り、壁の木材は腰(90㎝)までとし、子供たちが日々生活する保育室はヒノキ板張りとして、板張りの天井まで燃え広がらないようとしています。そして避難通路となる廊下部分は木質化を抑えて、避難が安全にできるよう配慮した設計としています。

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上/2階保育室内観  下/1階保育室内  右/観階段吹抜け

2)240角の製材(無垢)で燃えしろ設計
準耐火建築物で燃えしろ設計をする場合、木材はJAS材とする必要が有ります。製材(無垢材)は一般的に乾燥が難しい為に、サイズは105㎜角や120㎜角が主に出荷されています。
 1時間準耐火構造の製材の燃えしろ寸法は60㎜であり、210㎜角以上のJAS材を探して利用するか、又は105㎜角や120㎜角を、合わせ柱や合わせ梁にして使う方法を検討しました。
 くすのき保育園では、福島県の協同組合いわき材加工センターに導入された減圧高周波式乾燥機を用いて、240㎜角の柱(杉)や240㎜×360㎜の梁(杉)が、乾燥及び強度管理された状態で備蓄され出荷体制が整っており、それらを活用させて頂きました。

建方直後の様子

合わせ梁で燃えしろ設計の有効断面を確保

3)調理室と保育室の距離をとる
出火のリスクが高い調理室を、防火区画等とする事で火災時の延焼を抑えられるが、くすのき保育園では、延べ床面積が820.59㎡のため、法令上は防火区画が求められないが、園児の生活する保育室と距離を離すことで、万が一の避難の際に、園児をより安全に避難できることを重視しています。

“こどもたちが木の空間で健やかに育ちますように”という、園長先生の願いに応えるべく、こどもたちが日々の生活を通して楽しみながら自然を体験できるような野趣に富んだ木造園舎を提案しました。

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